会社売却を考え始めると、
多くの経営者が一度は調べると思います。
「同じくらいの会社はいくらで売れているのか」
利益の何倍なのか。
純資産はいくらなのか。
同業他社はいくらで売れたのか。
似た規模のM&A事例はあるのか。
もちろん、こうした情報を調べること自体は悪くありません。
私も、
会社売却の相場という考え方そのものを否定しているわけではありません。
ただ、実際に会社を売却した経験から今思うのは、
相場とは、誰かが過去に交渉した「結果」であって、自分の会社の答えではない
ということです。
他社がある価格で売れた。
だから自分の会社も同じくらい。
私は、そう単純には考えていません。
今回は、会社売却の相場や他社の売却事例だけでは、自分の会社の価格を判断できないと考える7つの理由を書きます。
1.売却事例から見えるのは「最終価格」だけ
例えば、
自分と同じくらいの規模の会社が、ある価格で売却されたとします。
それを見れば、
「この規模なら、このくらいが相場なのか」
と思うかもしれません。
でも、その売却の裏側までは通常分かりません。
売り手は最初にいくらを希望したのか。
途中で値下げ交渉があったのか。
どこまで譲ったのか。
他にも買い手候補がいたのか。
買い手をどう選んだのか。
どんな条件が付いていたのか。
売り手は急いでいたのか。
条件が合わなければ売らないつもりだったのか。
外から見えるのは、
「最終的にこの価格で成立した」
という結果です。
その価格になるまでの交渉過程までは分かりません。
だから私は、
過去のM&A事例を見る時には、
「この会社はこの価格だった」ではなく、「こういう条件の取引が成立した」
くらいに捉えています。
2.同じ会社でも、売る人が違えば価格が変わる可能性がある
会社売却では、
会社そのものだけではなく、
売り手側の交渉条件も結果に影響すると思います。
例えば、
「この条件以下なら売らない」
と決めている経営者と、
「何とか早く売りたい」
と思っている経営者では、
同じ会社でも交渉の進み方は違うでしょう。
一方は、
条件が合わなければ経営を続けることができます。
もう一方は、
多少条件が悪くても売却を優先するかもしれません。
つまり、
売却価格には、会社価値だけでなく売り手側の事情も含まれている
ということです。
過去の売却事例を見ても、
その売り手がどんな状況だったのかまでは分からないことがあります。
だから、
「この会社がこの価格なら、自分の会社もこの価格」
と単純に比較するのは難しいと思っています。
3.個別の売却価格より「その業界でM&Aが起きているか」を見る
私自身、
会社売却を考えた時に、
他社の売却価格を細かく追いかけることはあまりしませんでした。
それよりも気にしていたのは、
その市場で実際にM&Aが起きているのか
ということです。
同じ業界で買収が継続して起きている。
大手企業が参入している。
業界再編が進んでいる。
新しいプレーヤーが会社を買っている。
こうした状況であれば、
少なくとも、
「この業界の会社を買いたい人がいる」
ということは分かります。
反対に、
何年もほとんどM&Aが起きていない業界では、
価格以前に買い手探しが難しくなる可能性があります。
だから私は、
個別企業の、
「いくらで売れた」
という情報だけでなく、
市場全体で誰が何を買おうとしているのか
を見る方が重要だと思っています。
4.決算書が似ていても、中身まで同じとは限らない
会社売却の相場を比較する時、
売上。
利益。
純資産。
こうした数字は分かりやすい基準です。
でも、
同じ数字だから同じ会社価値になるとは限りません。
例えば同じ赤字でも、
本業そのものが弱くなっている赤字と、
新しい事業へ投資している途中の赤字では意味が違います。
逆に黒字でも、
安定して継続的に利益が出ている会社と、
一時的な大口案件によって利益が出ただけの会社では違います。
大切なのは、
なぜ、その数字になっているのか
です。
決算書は非常に重要です。
ただ、
決算書は結果を表したものでもあります。
その結果が生まれた理由まで理解しなければ、
本当の会社の状態は分かりません。
だから他社の数字だけを見て、
自社と単純比較することには限界があると思っています。
5.まだ決算書に出ていない「途中の価値」もある
事業には、
売上になる前の仕込みがあります。
新しい販売方法を試している。
新しい顧客層へアプローチしている。
新しい商品を作っている。
サービスを改善している。
仕組みを変えている。
まだ売上には十分反映されていなくても、
次の成長へ向けた準備が進んでいることがあります。
もちろん、
「これから伸びます」
と言うだけでは価値にはなりません。
小さくても、
テスト結果。
顧客の反応。
問い合わせの変化。
継続率。
売上の伸び。
こうした根拠を示す必要があります。
しかし、
過去の売却事例や直近の決算書だけを見ていると、
こうした「まだ完成していない価値」は見落とされやすい
と思います。
会社価値を見るのであれば、
過去だけではなく、
今何を作っていて、
その先に何があるのか。
そこまで考えた方がいいと思っています。
6.市況が変われば、同じ会社でも評価は変わる
会社価値は、
ずっと同じではありません。
時代によって、
欲しがられる会社は変わります。
大手企業がある市場へ一斉に参入する。
業界再編が始まる。
新しい技術が登場する。
法律や制度が変わる。
人口構造が変わる。
消費者の行動が変わる。
こうした変化によって、
買収ニーズも変わります。
だから、
前年に同じ業界の会社が高く売れたとしても、
翌年も同じとは限りません。
逆もあります。
以前はほとんど注目されていなかった会社が、
市場環境の変化によって突然欲しがられることもあります。
つまり、
過去の売却価格を見るのであれば、
「その会社が売れた時、市場はどんな状態だったのか」
まで見ないと判断しにくいということです。
私は、
相場以上に、
今の市況
を見ることも大切だと思っています。
7.最後は「会社 × 買い手」で価値が変わる
そして、
私が最も重要だと思っているのがこれです。
会社価値は、会社単体だけでは決まらない。
私は、
「会社 × 買い手」
で変わると思っています。
ある買い手には、
それほど必要のない会社でも、
別の買い手には非常に欲しい会社かもしれません。
欲しい顧客を持っている。
入りたい地域に強い。
必要な仕組みを持っている。
欲しい認知や信用がある。
新しい市場へ早く入れる。
ゼロから作る時間を短縮できる。
こうした理由があれば、
買い手から見た価値は大きく変わります。
だから会社売却で、
本当に考えた方がいいのは、
「自分の会社はいくらが相場なのか」だけではありません。
「誰にとって、この会社が一番価値を持つのか」
です。
相場は知る。でも相場を上限にしない
ここは誤解してほしくありません。
私は、
「相場なんて調べる必要はない」
と言っているわけではありません。
むしろ、
相場は知っておいた方がいいと思っています。
同じ規模の会社はどのくらいで評価されるのか。
利益はどう見られるのか。
純資産はどう評価されるのか。
同業界ではどんなM&Aが起きているのか。
そこは知っておく。
ただ、
その数字を、自分の会社の上限だと思わないこと
です。
相場より高い価格を考えるのであれば、
なぜ高いのか。
その理由を説明できなければなりません。
顧客なのか。
認知なのか。
成長性なのか。
仕組みなのか。
市場なのか。
買い手とのシナジーなのか。
何でもいいと思います。
ただ、
「自分はもっと高いと思う」
だけでは単なる希望価格です。
相場を理解したうえで、それを超える理由を説明できるか。
私はそこが重要だと思っています。
シナジーを買い手任せにしない
会社を売却するのであれば、
私は売り手側から、
「御社がこの会社を買ったら、こういうことができるのではないですか」
と提案してもいいと思っています。
この会社を買えば、
どんな顧客に接点を持てるのか。
どんな市場へ入れるのか。
どれだけ時間を短縮できるのか。
どんな事業と組み合わせられるのか。
売り手自身が考える。
自分の会社を最も長く見てきたのは、
経営者本人だからです。
買い手に、
「この会社の価値を見つけてください」
と全部任せるのではなく、
買収後の未来をこちらから見せる。
これも会社売却では必要だと思っています。
仲介会社の意見は聞く。でも最後の判断まで任せない
M&A仲介会社には、
多くの買い手候補とのネットワークがあります。
これは大きな価値だと思います。
自分だけでは接点を持てない会社へ、
話を持っていってもらえることもあります。
専門家だからこそ分かる相場感もあります。
だから私は、
仲介会社の意見を聞くこと自体は大切だと思っています。
ただ、
「自分の会社を一番欲しがりそうなのは誰なのか」
まで、売り手自身も考えた方がいい。
なぜその会社が欲しがるのか。
買収すれば何ができるのか。
どこに価値を感じるのか。
そこまで仲介会社任せにしない。
会社を作ってきた経営者だからこそ、
分かることもあると思います。
専門家の意見を聞くことと、
自分の会社の最後を専門家に決めてもらうことは別です。
相場とは、誰かが交渉した「結果」である
会社売却の相場を見ると、
その数字が答えのように見えます。
でも、
その価格になるまでには、
売り手の考えがあります。
買い手選びがあります。
価格交渉があります。
譲らなかった条件があります。
市況があります。
タイミングがあります。
買い手側の事情もあります。
全部が重なって、
最後に一つの売却価格が決まります。
外から見えるのは、
その最終価格だけです。
だから私は、
相場とは、誰かが交渉した結果であって、自分の会社の答えではない
と思っています。
会社売却の相場を調べている社長へ
もし今、
「会社売却 相場」
と検索しているのであれば、
もちろん相場は調べていいと思います。
他社の売却事例も見ればいい。
専門家の意見も聞けばいい。
ただ、
最後に考えてほしいのは、
「自分の会社を一番高く評価してくれそうな買い手は誰なのか」
ということです。
相場を知る。
市況を見る。
自社の価値を整理する。
買い手候補を考える。
そして、
なぜその買い手にとって自分の会社に価値があるのかを説明する。
私は、
そこまで考えることが、
会社を売る経営者の仕事なのではないかと思っています。
会社売却の相場が、なぜ買い手や売却時期によって変わるのかについては、こちらの記事でも詳しく書いています。
▶ 会社を売る相場はどう決まる?利益の何倍だけでは決まらない6つの理由
https://shacho-baikyaku.com/company-sale-market-price/
また、査定額そのものをどう見ればいいのかについてはこちらです。
▶ 会社売却の査定額はいくら?提示された価格を見る前に知っておきたい6つのこと
https://shacho-baikyaku.com/company-sale-valuation/
私自身も、
こうしたことを考えながら実際に会社売却へ動きました。
その頃のことはNOTEの連載でも書いています。
▶ 第44話「いよいよ売却に向けて動く」
https://note.com/shira_biji/n/n77c4b739f923
まだ会社を売ると決めていない経営者へ
会社売却について調べ始めたからといって、
すぐに売る必要はありません。
売るのか。
続けるのか。
もう少し会社価値を高めるのか。
私自身も迷いました。
そこで実際に会社を売却した経験から、
「会社を売ろうと思った社長へ。売却前に私が知っておきたかった7つのこと」
を無料音声にまとめています。
売却を勧めるための内容ではありません。
まだ答えを決めていない社長の方に、
一つの経験談として聞いていただければと思っています。
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